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鷹祐はお盆を一瞥し、
「紅茶なのに、和定食なの?センス疑うね」
非難した。
「近所のパン屋が連休中だったんだよ。お前、スーパーの食パン出しても手をつけねぇだろ!」
噛みつかんばかりに抗議する。
「だいたい、人の労働を踏み台にして優雅な朝を獲得してる奴が文句言うな!カップラーメンの作り方も知らない奴に、朝飯作れとは言わない。けど、ラボの空調チェックと診療所の掃除くらい手伝いやがれ!」
日頃の不満も後押しして、蘇芳はいきり立つが、父の方はどこ吹く風。
イタダキマス、と手を合わせ、黒漆に金蒔絵を施された箸を作法通り持ちかえ、
「人間持ちつもたれつ。奉仕の精神が寛容だぞ」
つつ、と海老しんじょうとと三つ葉のお吸い物を啜る。
「一方的に奉仕させてることを、『持ちつもたれつ』と言うんか!」
「お、柚子も入ってるんだな、いいねぇ。で、遅刻しそうなんじゃないの、蘇芳君?」
「ああっ!しまった!」
エプロンを脱ぎ捨て、ダイニングから飛び出して行った背中に、
「そうだ、整備に出してたアーチェリー、昨日受け取ってきたぞ。玄関前に置いてあるからな」
おうよ、んじゃ行ってくる、と言う返事と、バタンと乱暴に扉が閉まる音が、ほぼ同時であった。
「いってらっさ~い」
嵐のように去っていった息子には届かないと知りつつ言葉を掛けながら、鷹祐は、テレビのリモコンをポチッと押した。
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