追跡者

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街頭テレビの前で、蘇芳は足を止めた。 西香具夜町二丁目。残業から免れたサラリーマンの退社時刻と重なっていることもあって、通りの人口密度は慣れないものなら悪酔いしそうなほどだ。 小学生の集団がスポーツカータイプの乗用車を追い抜いていくという本末転倒な光景も、都市ならではに違いない。しかし、日常茶飯事である為、通行人からはその滑稽さに気付く精神などとうに失われている。 都市とは、人間の然るべき姿を見失わせる巧妙な装置なのかもしれない。 フルHDパネル搭載、40V型以上の大画面プラズマテレビで一体何を鑑賞するのか。 その答えの大半がバラエティー番組とコマーシャルで占められるとすれば。 宝の持ち腐れじゃないか、という懐疑は貧乏人の遠吠えにしか聞こえないのだろうか。 (高画質が裏目に出てるね、こりゃ) 蘇芳は、貧相な顔に厚かましい態度の司会者と、尤もらしい相槌を打つだけが取り柄のキャスターの映像を眺める振りをして、大型画面に映り込む通行人を観察する。 半透明のビニル袋を両手いっぱいにぶら下げた主婦・・・シロ。 ランドセルを背負った小学生のグループ・・・シロ。 営業スマイルでフリーペーパーを配る若い男・・・シロ。 そして・・・。 (・・・クロかな) 黒のジャンパーの男と、カーキ色の厚手のジャケットの男の二人連れ。どちらも帽子を目深に被っている。 彫りの深い顔立ちと褐色の皮膚からすると、南米系か、アラブ系か。 アメリカ発のカフェチェーン店の入口で、メニューボードを見ながら言葉を交わしている様子はごく自然に見える。 (さっきはドラッグストアの店頭にいたよな、こいつら) 頬をぽりぽり掻きつつ、思考を巡らす。 (さて、どうするかなぁ) 5分頃。蘇芳は一つ頷くと泰然自若とした足取りで家電屋から立ち去ったのであった。
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