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青年は繁華街を抜け、細い脇道に入っていった。
「全く・・・面倒かけやがる」
化繊のジャンパーのポケットに手を突っ込んだまま、猫背気味の男が辺りを憚るような声音でぼやく。
この青年の登下校を尾行し始めて5日目なのだが。
通勤や通学の経路など、毎日毎日判で押したように決まりきっているものだ。
ならば「その機会」を伺うのは容易いこと、そうタカをくくっていた。
ところが、青年の足取りが掴めない。
5日のうち、5日とも全て異なるルートを辿っているのだ。
「今日こそ、チャンスかもしれんぞ」
もう一方の男はジャケットと同系の茶地に、グリーンのラインが入ったニット帽を目深に被っていた。隠弊された黒瞳には鋭利な光が潜んでいる。
この近辺の地図は頭に叩き込んであった。
「この先は開発予定地だったはずだ」
土地を買収し、中途半端に更地にしたところで資金不足に陥り、再開の目処はたっていない。
日中でも、人通りは少ない地域のはずだ。
「そう来なくちゃな」
男の猫背が少し伸びた。
左手をポケットから抜き出し、薬指に嵌め込んだ小型通信機のスイッチを押す。
「黒羊だ。任務を第二段階に移す」
『彼女の手料理は最高なんだ』と、言うのと同じような口調であった。
神のご加護を、という言葉を残し、通信が切れる。
前方の標的はT字路に差し掛かっている。二人は目配せした。
男達が駆け出したのは、青年が右折するのと同時であった。
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