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紫は困ったような、それでいて若干楽しんでいるような、独特の口調で言った。
彼女の『境界を操る』能力は、物理的な物から概念的な物まで、幅広い対象を持つ。それと比べれば、所謂ワープのような能力は幼稚に見える。しかし、そのような能力自体が他と比べて際立った物であり、それゆえ彼女は今回の異変に関心を抱いたのであった。
「ところで紫様、閻魔から連絡が先程あったのですが……」
「……は?」
藍の突然の発言に、紫は顔を強張らせ、藍の方を向いた。
「今回の異変について、聞きたい事があるので出廷するようにとの事なんですが……」
藍はその態度に一瞬仰け反りつつ、続けた。ここでいう閻魔とは、白黒はっきりつける裁判長『四季映姫・ヤマザナドゥ』の事であり、紫の苦手とする数少ない存在であった。
「……ふうん、お門違いにも程があるわね」
「ですが、あの閻魔の言う事ですし……行かないとまずいのでは?」
「……それもそうね。藍、代わりに行ってくれる?」
「……はい?」
紫の突拍子も無い発言に、藍は再び仰け反った。
「……藍」
「……分かりました……」
険しい視線をもって、紫は藍に詰め寄った。流石に、式神という主従関係には逆らう事は出来ず、渋々ながら藍は承知した。
「……藍さま……」
「……橙、これが式神の理よ?」
「はい……」
その光景を端から眺めていた、猫のような外見をした式神『橙』に、藍は諭すような口調で言った。
上下関係をまざまざと見せ付けられた橙は、何処と無く憂いを帯びたような瞳で、藍を見送った……。
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