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「…マクスウェル様」
「何だ?」
イタリアはローマ市内に存在する、世界最小の独立国家、バチカン。その教皇領の一角で、眼鏡をかけた老神父が、グレーの髪を後ろで束ねた男性に声をかけた。そのマクスウェルと呼ばれた男性は、司教の纏う服飾を身に付けており、それなりの地位に立つ者であると分かった。
「アンデルセン神父がペイドリックより戻りません。予定では既に到着している筈ですが…」
老神父は、困ったような、あるいは呆れたような表情で続けた。それを聞いたマクスウェルもまた、右手を額に当て溜め息をついた。
「あの猪武者め……それで、何か行動は?」
マクスウェルは右手を下ろすと、ゆっくりと老神父の方を向き、尋ねた。
「ハインケルと由美江に主導を任せ、捜索させておりますが……なにぶん詳細が全く不明ですので」
老神父は、芳しくない報告しか出来ない事を恥じるように僅かに俯きつつ言った。
「あるいは、第四課にでも協力を依頼しましょうか?」
「…いや、表に知られてはまずい。我々だけで事を進めるのだ」
そう言うと、マクスウェルは一度俯いてから窓の方へ体を向け、外を見た。
「何をやっているのだ、アンデルセン先生。ヘルシングにまた出し抜かれたいというのか?」
マクスウェルは、誰へ向けるでもなく言った。窓の外では、白い鳩が二羽、主の献身の日の如く舞っていた……。
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