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そんな中、志乃の家から14、5軒程離れた女郎小屋を訪れていた若い武士が相手の女郎に斬りかかろうとしていた。
「この化け物め!兄者をどこへ隠した。言え!言わぬと斬るぞ」
「きゃあ」
小屋の中は騒然となり、外まで広がると、町全体が大騒ぎとなった。
法明と志乃もこの騒ぎに気付くと、着物を着て外へ出た。
「一体、何があったんだ」
法明が言うと、
「ここ最近、遊びに来た旦那衆が消えるという事があってね。どうも、あの店が怪しいという噂がたっていたの。でも、あの店は私もよく知っているから、決して怪しくなんかないわ」
志乃はこの町で起こっている一連の事件のことを法明に話した。
「とにかく、騒ぎを止めなければ」
法明は、騒ぎの発端となっている女郎小屋へ掛けて行った。そして中へ飛び込むと、恐るべき妖怪と遭遇したのである。
妖怪は、女郎蜘蛛という人間の女の顔を持つ巨大蜘蛛で、尻から糸を出し、侍と女郎を縛り上げていた。
「こいつか」
法明は事件がこの妖怪の仕業であることを見抜くと侍が落とした刀を拾い、糸を切った。
そして、外へ飛び出し、女郎蜘蛛を人気のない町外れへおびき出した。
志乃は、〈退魔の太刀〉と〈退魔の弓〉を持って、後を追った。
半里ほど離れた河原に女郎蜘蛛をおびき出した法明は、刀を振りかざし、隙を窺った。
その瞬間、女郎蜘蛛は口から糸を吐き、法明の体を縛りつけた。
「し、しまった」、法明は完全に動きを封じられ、危機に頻している。「母上、もうこんなことはやめてください」
〈退魔の太刀〉と〈退魔の弓〉を持って河原へ駆けつけた志乃の口から信じられない言葉が出た。
「母上?志乃さん、あなたはまさか…」
法明はもがき苦しみながら、志乃に向かっていった。
「私はこの女郎蜘蛛の娘よ」
志乃は目に涙を浮かべながら言った。
「そ、そんな、嘘だと言ってくれ」法明の意識は朦朧し始めた。
志乃は〈退魔の弓〉を手にすると、女郎蜘蛛に矢先を向けた。
「母上。もういいでしょ?法明さんを離さないと射ちます」
「志乃よ。気でも狂ったか?」
女郎蜘蛛は、志乃を睨み付けた瞬間、志乃は、誤って手を滑らし矢を放った。
「ギャー」
矢は女郎蜘蛛の左目を貫くと、法明を縛り付けていた糸をほどいた。
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