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「奴が弓内法明か」
「そうだ。お前の剣の腕で奴を討つのだ」
妖死郎は、法明抹殺のため、魔界から、邪鬼丸という名の若き剣士を呼び寄せた。
「任せてください。必ず奴の首を親方様に献上いたします」
邪鬼丸は、妖死郎に忠誠を誓い、その場を離れた。
「法明よ。これで貴様も終わりだ。ハッハッハ…」
妖死郎は不敵な笑みを浮かべ、立ち去った。
苦戦の末、妖怪泥太夫を倒した法明は、酷い疲労感に襲われながら、この日のねぐらを探し歩いた。そして、一軒の民家を見つけた。
「御免、誰か居らぬか」
法明の呼び声に、戸が開き、1人の少年が出てきた。
「誰?」
「怪しい者ではない。私は弓内法明と申す者。すまないが、今晩、泊めてはくれぬか」
法明は、疲れきった表情で頼んだ。
すると、奥から祖母らしき、お伊佐という名の老女が出てきて、快く受け入れた。
「あんた、どこまで旅をしてるんじゃ?」
老女が訊ねた。
しかし、法明は自らが退魔師であることを隠し、ただの放浪者であると話した。
「ほー。そうかい。これはまた、物好きな人のいるもんじゃ」と、いうと、早速、夕飯の準備を始めた。
「坊主、名前は?」
法明は少年に訊ねると、
「小太郎」と名乗った。
「父上と母上の姿が見えないが…」
法明がさらに訊ねると、小太郎はうつむき、目から大粒の涙をこぼした。
「その子の親は、戦に巻き込まれて死んだのさ。まだ、三つの頃にな」
お伊佐は、夕飯の支度をしながら、法明に話した。
「す、すまん。悪かった」
法明は、小太郎に謝ると、身に着けていた、〈退魔の守り札〉をあげた。
「これやるよ。これは、私の母の形見だ。実は私も親兄弟、みんな妖怪に殺されました」
小太郎は静かに顔を上げると、手で涙を拭った。
そして、3人は夕飯を食べながら、会話を弾ませた。
そして、夜は更け、法明は小太郎と一緒に添寝した。
2人が寝た後もお伊佐は、小太郎の着物の綻びを直すため夜更かしをしていた。
と、その時、家の外で何やら物音がした。
「おや、何だろね」
お伊佐は静かに立ち上がる、土間に出て、外の様子を見ようと、戸を開けた。
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