21人が本棚に入れています
本棚に追加
司郎がこの剣術道場を継いでから、早40年。
その間には、色々なことがあった。
ひとり娘の聖華(せいか)が産まれたこと。
神社で小さな赤ん坊を見つけ、誠一と名付けたこと。
誠一を親戚の菅(かん)家に預けたこと。
聖華が藍花を産み、数年後に死んだこと。
いままでの出来事が、走馬灯のように思い出される。
なぜこんな事をいま思い出すのか…。
微かだが、予感がする。 かつて感じたことのない嫌な予感が。
司郎は、目の前で一生懸命に竹刀を振る藍花の姿を見た。
身内のひいき目を差し引いても、随分と腕を上げたと思う。
剣術において、いっさいの甘えを許さなかった成果が出ていた。
その時がきたのかもしれない。
いささか早すぎた時だけれども。
司郎は、稽古の後で誠一ひとりだけを呼び出した。
最初のコメントを投稿しよう!