黎明の鐘

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司郎がこの剣術道場を継いでから、早40年。 その間には、色々なことがあった。 ひとり娘の聖華(せいか)が産まれたこと。 神社で小さな赤ん坊を見つけ、誠一と名付けたこと。 誠一を親戚の菅(かん)家に預けたこと。 聖華が藍花を産み、数年後に死んだこと。 いままでの出来事が、走馬灯のように思い出される。 なぜこんな事をいま思い出すのか…。 微かだが、予感がする。 かつて感じたことのない嫌な予感が。 司郎は、目の前で一生懸命に竹刀を振る藍花の姿を見た。 身内のひいき目を差し引いても、随分と腕を上げたと思う。 剣術において、いっさいの甘えを許さなかった成果が出ていた。 その時がきたのかもしれない。 いささか早すぎた時だけれども。 司郎は、稽古の後で誠一ひとりだけを呼び出した。
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