黎明の鐘

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「夜を寒み ねざめて聞けば 鴛鴦ぞ鳴く 払ひもあへず 霜や置くらむ」 後撰集の中の一首を詠みながら、管 誠一(かん せいいち)は少し湿った廊下の戸に手をかけた。 思った通り――もちろん鴛鴦は鳴いていないが――軒に霜が連なっている。 外は、夜明け前でまだ暗い。 初雪でも降るのだろうか…。 寒いので戸を閉め、準備をしようと誠一は鏡に向かった。 部屋の明かりをつけると、少年の姿が闇の中からはっきりと映し出される。 年は17くらいだろうか。 乱れている淡い色の髪は肩にかかっていて黒というより茶色に近い。 柔らかくはねているのは猫っ毛だからだろう。 眉も茶色くすっきりとして、ゆるやかなカーブを描いている。 誠一は冷たい空気を肌で感じとりながら、今朝の早朝稽古も大変になりそうだと思った。 ふと目を上に向けると、時計の針が5時を指しているのが分かる。 そろそろ起こしに行ったほうがいいだろうか。 誠一は単の寝巻きを脱ぎ、稽古着へと着替え、髪をひとつに結ぶと 「初雪の見参をするとしよう」 少々冗談を交えながら、足早に奥の部屋へと向かった。
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