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誠一のいる家屋はとても広い。
敷地の中は主に3つに分かれていて、右から剣術道場、母屋、西の離れとなっている。
今歩いているのは西の離れで、これから起こそうとしている者、柊 藍花(ひいらぎ あいか)の部屋がある。
誠一は代々剣術道場を営む柊家に厄介になっていた。
長い廊下を突き進み、一番奥の突き当たりの部屋で誠一は足を止める。
「早朝稽古の時間です。起きていらっしゃいますか、藍花様?」
そう声をかけると、障子の向こう側から不機嫌そうな少女の返事が聞こえてきた。
「起きているわよ。着替えもすんでいるから、安心して入ってらっしゃい」
ほっと安堵して誠一は障子をゆっくり開いた。
八畳ほどの部屋の中央に一人の少女が正座している。年は15ほど。
眉はすっと一直線に伸びて瞳も少し切れ長、唇は赤くきゅっと結んである。
艶やかな黒髪は背中を覆い隠せるほど長く、さらに少女はそれを一本に束ねていた。
威厳のある装いで、キッと誠一を睨み付ける。
「また呼びに来たのね、誠一。もうひとりで起きられるから大丈夫だって言っているのに、ちっとも信じてくれないんだから」
不満の感情を明らかに表に出して口を尖らせる藍花を、誠一はなんとかなだめようとした。
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