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【市原京一の視点】
割った窓から教室へ飛び込み、部屋を突っ切って廊下へ出る。
非常灯の緑光に淡く染まる廊下、そこを走り、階段に足を掛けた時、上階から悲鳴が聞こえた。
悲鳴はテルコの声、ついに髪掴神に髪を掴まれたのだ。
「踏張れ!」
俺は叫び、階段を駆け上がる。
(くそ!くそ!くそ!)
これは自分への罵声だった。
この前、体育館裏で踏むと約束した時、テルコは『ありがとう』と礼を言った。
あれは、約束を交わした俺への礼ではない。
あれは、約束を果たすであろう俺への礼なのだ。
あの時、テルコは約束が果たされることを信じていた。
信じていたから礼を言った。
その礼を受け取ったにも関わらず、俺は為すべきことを怠った。テルコへの注意を怠り、肝心の踏むべき裾を見失った。今日ぐらいはテルコの行動に注意を払うべきだったのだ。
きっと、テルコは今でも俺を信じている。
俺は三階へたどり着くと、化学室へ向けて廊下を駆ける。
(見えた!!)
廊下の床から生えた腕が教室のドアを押えている。掴神の腕だ。
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