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満月の晩、裾踏姫は忙しい。
満月の晩には神隠しが起こるのだ
掴神(ツカミ)が人を掴んでさらってゆく。
その掴神から人間を守るための呪術が『裾踏留めの呪術』だ。着物の裾を踏み、その人間をその場に呪縛する呪術。選ばれた者のみが使え、それを駆使する女性達を裾踏姫という。
よって、今夜は俺も忙しい。
俺は女性ではないが、なぜか呪術を使える。太古から続く裾踏姫の歴史をみても、男の裾踏姫は数人しか現れていない。つまり、俺は貴重な存在なのだ。
「全く、なぜ男なんじゃ・・・」
前に立つ老人がブツブツと文句を言った。
「裾踏姫は美女ぞろいと聞いたかから高い金を払っておるとゆうに・・・」
「おい、じじい。金は『裾踏留めの呪術』に対する報酬だ。女をはべらすための金じゃねえ。勘違いするな。ついでに言えば、肩をもんでやる義務もねえんだ」
だが、老人は話を聞いていない。
「わしも運がないのう・・・日本全国、百余人いる姫の中で唯一の男を引いてしまうとは」
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