第一話 テルコ

6/80
前へ
/80ページ
次へ
「おい、何だったら、今すぐ裾から降りてやってもいいんだぞ?そいつに連れていかれたいか?」 俺がギューと肩を揉む手に力を込めると、老人は着物の袖に視線を落とした。  老人の袖には白い指が絡み付いており、その手は壁から伸びている。 袖掴神(ソデツカミ)だ。  俺が裾から退けば、たちまち老人は壁の中へ引きずり込まれてしまうだろう。 「それは困るのう。まだこの世にやり残していることがある」 「だったら、黙れ。じじい」 「袖掴神に狙われ、お前さんを雇って五年・・・一向に敬老精神が身に付かんな」 「肩を揉んでるじゃねえか。サービスだ」
/80ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3384人が本棚に入れています
本棚に追加