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その声には聞き覚えがあった。また、手を振る女子に向かっていきなり怒鳴る男も一人しか心当たりがない。
(京一!?)
よくよく見ると、その姿形はまさしく京一だった。
京一は走りながら「何かに掴まってろ!」と叫び、地面から石を拾い上げる。
一階でした窓ガラスの割れる音が私のいる三階にまでとどく。
(京一が来てくれた!)
もうすぐ、私を助けにこの教室へ来てくれる。
私は込み上げる歓喜に声を上げつつ、京一が現れるであろう扉を振り返る。
その私の目に映ったのは、指紋が見えるほど間近に迫った五本の白い指であった。
歓喜は恐怖へ変わり、歓声は悲鳴へ変わる。
私は避ける間もなく髪をわしづかみにされる。
ゴムのように長く伸びた腕は黒板の真中から生えており、そこに向けて私を引き寄せる。
「ア・・・ア・・・アァーーーッ」
私は無我夢中で窓の黒いカーテンを掴んだ。
首に負担がかかり、ねじれ、痛みが走る。それでも私はカーテンから手をはなさない。
その私の耳にプチ、プチ、と音が聞こえた。視界の端にカーテンが外れてゆくのが見える。
もう保たない。
私は悲鳴とともに京一の名を叫んだ。
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