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(そうか・・・あのじじいが死んだか・・・)
生徒もまばらな朝の教室。俺は携帯電話によってその訃報を知った
11歳の時に『裾踏留めの呪術』の才能を老人に見いだされて以来、ずっと老人の裾を踏んできた。浅からぬ縁だ。
(まあ、九十を越えたんだ・・・大往生といえる。じじい、安らかに眠れ)
俺は老人との思い出(ほとんどが後ろ姿だが)を胸の奥にしまい込み、新たな問題に目を向ける。
次は誰の裾を踏み、誰を神隠しから守るかだ。
金に困っているわけではない。裾踏姫にとって、神隠しの阻止は使命だ。誰が決めたわけでもなく、本能的なものである。
たぶん、俺が公募をかければ、神隠しを恐れる何百という人間から依頼が来るだろう。それほどに掴神は多く、裾踏姫は少ない。
(どうせ一晩を踏んで過ごすなら・・・可愛い女がいいな。黒髪の香りを楽しみながら裾を踏む、じじいでは望めないことだ)
俺がそんなことを想像していると、机を叩く激しい音が教室に響いた。
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