28人が本棚に入れています
本棚に追加
後続の二頭が急に足を止めた。
振り返ってみると、明らかにどこかふてくされた表情をしている。
彼らは今年の栄誉に選ばれた新人だ。
幾日も厳しい訓練を続けているのだから、そろそろ愚痴の一つも言いたくなる頃合いだろう。私も身に覚えがある。
しかし彼らが口にしたのは愚痴ではなかった。
「俺ら、辞めます」
「なーんか思ってたより地味っつーか、ダルイっつーか」
「そんな、本番は明日だし、この務めがどれほど崇高な事か」
「だーかーら。そういうのもう古いって」
ユトリか? これが世に言うユトリ世代なのか?
さんざんに説得を試みたが私の手には負えず、やむなく彼らを主の元へ連れて行った。
主は事の次第を聞くと、近年またさらに膨れた腹を盛大に揺らして笑い、彼らと何か話し始めた。
当日彼らは任務をこなした。
そればかりか達成感に感動すら覚えているようだ。
どうやって彼らを説得したのか聞いてみると、主は下手くそなウインクをよこした。
「やらねば焼いて喰うと言ったんだよ」
「き、脅迫っ?」
「子供には飴と鞭じゃ。仕事を終えれば必ず得る物はある。それが飴じゃな」
サンタクロース。
伊達に長年子供の相手をしてきた男ではない。
おしまい。
最初のコメントを投稿しよう!