不機嫌

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   ばし、と何かを叩く音が聞こえた。  数秒後、叩かれたのは自分の頭だと気づく訳だが、どうやら私は寝ていたらしい。 「馬鹿。何寝てんだよ」  いつもならでかいはずの同僚の声が、小さく耳に響く。  そっとデスクに突っ伏していた頭を上げると、まず始めに、不機嫌な上司が目に入った。彼は苛つきを顔に浮かべながら、不器用にパソコンのキーボードを叩いている。  右を向けば、先程私の頭を叩いたであろう、同期の椎名が、こちらもキーボードを叩いている。しかし上司と違い、退屈そうではあるが、器用に流れるようなブラインドタッチを披露していた。  椎名は、見るからにいまどきの若者、といった容貌をしていて、赤みがかった短い茶髪を立てている。その、会社員に不適切な髪の色は、一応注意は受けている。  しかし、私達の勤める事務の仕事ではそこまで徹底する必要がないのか、はたまたうちの会社が甘いだけなのかは判然としないが、彼が髪を黒く染めることはなかった。  しかし、上司に目を付けられていることには変わりない。  それは、黒髪で一見真面目な私にも言えることなのだが。
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