第一章 記憶に残る赤いナニカ

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沼津祐一は無味簡素な展覧会場をぐるりと見回す。 「沼津さ~ん! 三人の画伯が到着したみたいっす」 雑務の林部(リンベ)がそう声を荒げた。三人の画伯とは明日行われる展覧会に絵画を出展する画伯たちだ。三人とも葵画伯と肩を並べる程の腕前で、その絵に魂が宿っていると言っても何等差し支えない。 「そうか。別館にご案内しなさい。私は主人に伝えてくるのでここを離れますが、くれぐれも注意を怠らないように」 「了解っす」 「わかりました!」 「りょーかいです」 「はい! わかりました」 「了解しました……」 その場にいた五人の雑務担当が一斉にそう言う。 「任せなされ……」 最後にそう言ったのは老婆だった。見た限り高齢だが、それを感じさせない力強さがある。 「神有さん。この場は任せましたぞ」 そう言い残し、沼津は展覧会場を出た。
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