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和樹は、気が付いたらエミの死体を見下ろしていた。
頭がぐちゃぐちゃだ。
自分の手を見る。自分が仕事で使うかなずちを握り締めていた。血で染まっている。
(あ…やっちまったのか?)
気付いた途端、猛烈な吐気を覚えた。トイレにかけこむ。ゲーゲー戻しながら、和樹は次の瞬間、死体の処理をどうするかしか考えてなかった。
結局、すぐ裏の山に埋めた。穴を掘ってエミを投げ入れ、また土を被せながら、殺害直前のことを思い出した。
「別れてくれないか」
和樹がそう切り出すと、エミは硬直したように動かなくなった。
「好きな人が出来たんだ」
エミは首を横にふった。
「わかってくれよ。もうお前といるのは無理なんだって…俺らだいぶ前から駄目になってたの…わかってただろ」
「…嫌…」
エミは首を振り続ける。するといきなり立ち上がり、髪を振り乱しながら和樹にしがみついてきた。
「誰よ!!どこの女よ!!」
「落ち着けって…」
「別れるなんて嫌!!その女殺してやるんだから!!」
和樹はぞっとした。エミの目は本気だった。
「やめろ!!」
「だって別れるなんて無理よ…だって私…」
「離せ!!」
和樹は何故か強い恐怖を感じた。「別れるくらいなら、道連れにしてやる!!」
エミの手が和樹の工具バッグに伸びた。かなずちを掴む。
「ばかやろう!!」
「だって無理よ!!私、だって、に…」
和樹は、かなずちを振り上げたエミの手をとってそれを奪った。
そこからの記憶がなかった。
気が付いたら、エミはすでに死んでいたのだ…
土を最後までかけおえ、和樹は深く溜め息をついた。
許してくれ…俺だって殺したくはなかったんだよ、わかってくれ…
和樹は空を見上げた。
星はなかったが、月が驚くくらい明るかった。
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