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それがしばらく続いたが、ふっと明人の目がミラーではなく前方に固定され、表情が和らいだ。スピードも落とす。そして私に
「どうしたの、いきなり黙っちゃって」
と笑いかけた。
私は、いきなり黙ったのは明人の方じゃない…と思いながら、
「まさか…何が見えた"?」
と冗談めかして聞いた。明人は、
「何が?何もなかったよ」
と笑顔で返した。
明人は急にいつものように饒舌になった。
「何の話してたっけ…あ、動物園の話だったな。でさぁ、俺レッサーパンダがどうしても見たくて。ほら、なんだっけ有名なあいつ…えっと…」
明人は前方から目を離さずに話し続ける。
「あ、それそれ風太くんだ。あれみたいに立つかなぁって思ってさ。んでレッサーパンダはいたけど、どうだったと思う??立ったと思う??」
私は寒気を感じた。
「ぶー!!残念な事に立つどころか、ずっと寝てやがって…」
楽しそうに話し続ける彼。
誰かと。
私はさっきから怖くて、一言も口を開けずにいた。なのに明人は会話を続けてる。誰かと…誰と?
私は霊なんて信じない。いるはずない。
けど、ルームミラーを見た。
気のせいだと思いたいが、
髪の長い、知らない女がそこにうつっていた。
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