カチカチ

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由紀は眠れなかった。 二段ベッドの上に眠る姉の美紀が、最近彼氏が出来、毎晩遅くまでメールのやりとりをしている。そのボタンのカチカチという音が、静かな部屋中に響いて眠れないのだ。 最初の時は、もういい加減にして眠れないじゃない、と苦情を言っていたが、一向にやめる気配はないので諦めた。 しかし毎晩のことで、由紀も寝不足が重なりどんどんきつくなってきた矢先だった。 美紀が交通事故で死んでしまった。 由紀は悲しかった。大泣きした。しかし通夜を終え火葬を済ませると心に余裕が出来たのか、ああそういえばもうあのメールを打つ時のカチカチに悩まされなくてすむんだなぁと少し寂しいながらも思った。 だけど、今でも毎晩、あのカチカチ音が部屋中に響いている。 幻聴かと思ったが、打つリズムといい、生前の美紀がいたときのままだ。 怖くて、美紀のいた二段ベッドの上を覗きには行けない。 カチカチカチカチカチ… 由紀は、姉が死んでも尚ここにいるのか、それとも自分が狂ってしまったのか、わからなかった。
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