忘れもの、その1(野球の匂い)

5/5
前へ
/277ページ
次へ
「つかお前、濱崎さんと消えたらしいじゃん。付き合ってんの?」 とヤスは言った。 まさかヤスに聞かれるとは思ってなかったので少し驚いたが、僕はそうだと答えた。 クラスの野球部員にでも聞いたのだろう。 するとヤスは 「マジかよー!あの子狙ってる奴、結構いたんだぜ。いいなぁ、ちくしょー!じゃあ練習戻るわ、またなー」 と言って走って行ってしまった。 いつもマイペースな奴だ。 しかし押し付けがましい所はなく、迷惑をかけられるような事もなかった。 ヤスと話すようになってから何度か野球部に誘われたが、今はそれもなくなり気楽に話せる関係になっていた。 口は悪い時もあるが憎めない男だ。 そのままネット裏に座って少しだけ練習を見ていると、なぜ自分がここに来たのか不思議に思った。 世の中の大半の事には意味なんてないんだと誰かが言っていたのを思い出した。 そうかもしれない。 しかしそうじゃないかもしれない。 バッティングピッチャーの軽そうな球が 僕をほんの少しだけ苛立たせた。
/277ページ

最初のコメントを投稿しよう!

276人が本棚に入れています
本棚に追加