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「それはわかりません。
私に伝えてくれた彼女もそこだけは話さなかった…。
そこを直接知ってしまったら私やあなたもまたロストになってしまうかもしれない。
それが重要なところなのですが」
わからない。
そんな事が有り得るのだろうか?
彼女とは誰の事だろう。
僕が口を開こうとすると藤代さんは急に耳を抑えて、
「…すいません、もう時間があまりないようです。
詳しくはこちらに書いてありますので、
時間ができたら読んでください。
手紙では伝えられない部分は話したつもりです」
と言って封筒を渡してきた。
またロストにでもならない限り、時間はいくらでもある。
むしろ僕には時間しかないくらいだ。
それよりまだ聞きたいことがある
「あの、いくつか聞きたい事があるんですけど」
と僕が言うと藤代さんは被せるように
「…すいません。
もう時間がないんです。
まさかこんなに早いとは思ってませんでしたが」
と言って立ち上がった。
何をそんなに急いでいるのだろう。
立ち上がった藤代さんは歩き出し、部屋の壁際で足を止めてドアを開けた。
入ってきた所とは別のドアだ。
「何度もチェックはしたんですが、盗聴されていたのかもしれません。すでにあなたのご家族は香織が用意した場所に移動しているはずです。
そこは安心してください」
…意味不明だ。
今までで1番、わからない。
藤代さんは続けた。
「ロストから戻った人達は必ず捕まります。
少なくとも今まではそうでした。
しかしあなたにしかできないことがあります。
それをどうにかやってほしい。
いつからかはわかりませんが、あなたが見張られていた可能性もあります。
奴らに知られずにここまで話ができたのは幸運でした。
私の友人がこちらの部屋で待機しています。
彼なら大丈夫。少し変わっていますが優秀です」
「ちょっ、ちょっと待ってください。
全然意味がわからないんですけど」
と僕は言った。
藤代さんが焦りを必死に抑えているのを感じた。
頭を整理しようとしたが、うまくいかない。
「行ってください。
私の話を忘れないでください。
それと香織に会うことがあったら、
…ありがとう、と伝えて下さい。
上手く行くことを祈っています」
藤代さんは開いたドアを手で抑えている。
僕の頭は動かないし働かない。
しかし足は動いた。
僕は立ち上がり、封筒をポケットに入れて藤代さんのいる所まで進んだ。
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