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少し経つと、やけに分厚い作業衣のせいで、背中にじっとりと汗をかくのを感じた。
まるでスキーウェアを着ているように重い。
しかしそれはあの男も同じはずだ。
僕だけが弱音を吐くわけにはいかない。
なんとか男に追い付かれることなく、僕は階段が途切れる所まで登った。
息はかなり切れているし、
足と身体にはかなり乳酸が溜まっているように感じる。
妙な達成感のようなものを感じながらドアを開けると、
なんとそこにはあの男がいた。
「…何でいんの」
と僕は言った。
男は僕の言葉を聞いていないフリをしている。
話をするのが面倒だとでも言わんばかりだ。
おそらくエレベーターで先回りしたのだろう。
何てやつだ。
嫌がらせだろうか?
しかしわざわざそれを咎める必要はないと僕は思った。
今の状況ではおそらく彼を頼るしかないのだ。
落ち着いたら、色々整理すれば良い。
それに藤代さんは時間がない、と言っていた。
「名前はなんていうの?」
と僕は聞いた。
すると男はめんどくさそうに答えた。
「小林レイジ」
エレベーター前からまた別のドアを通り、僕たちは屋上に出た。
ドアには鍵がかかっていたが、それは小林が持っていた鍵で開いた。
屋上は思ったより広くひらけている。
奥の方には巨大なタンクがあり、その手前には学校などでよく見かける網のフェンスが立てられている。
それはぐるりと屋上を囲んでいるが、すぐ近くには南京錠つきの出入りが出来そうな部分がある。
その奥には丸太のような形をしたビニールとエンジンのようなものが置いてある。
小林は南京錠を開けて中にフェンスの外に出ると振り向いて
「来いよ」
と言った。
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