・どちらにせよ僕には

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フェンスをくぐるとその先には、 小さな段差があるだけで 僕は足から力が抜けるような気がした。 その先は何もない。 晴れた空と、雲だけだ。 小林は丸太のようなビニールの中から何かを抜き取るとそれを広げ始めた。 嫌な予感がした。 正確にいえば、すぐに予想はついた。 しかし気付きたくなかった。 また足から、今度は背中の方まで力が抜けた。 思った通り、小林は布のついた骨組みとエンジンを合わせて パラグライダーのようなものを組み立てた。 それから小林は近くの物置のようなところに入ると、プロペラのようなものを持ち出してきた。 間違いない。 これで、ここから飛ぶ気だ。 スムーズにプロペラが取り付けられると、エンジンが音を立てて鳴り始めた。 「よし、行くか」 と小林は言った。 いやだと言ったらどうなるだろう、と僕は考えた。 しかしどちらにせよ僕には選択肢などありはしなかったのだ。 この時も、これからも。
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