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結衣は客室のような部屋に閉じ込められていた。
ドアの外には大柄な男が一人立っているだけで鍵はかかっていなかった。
コートの男が近づくと大柄な男はドアを開けて横に移動した。
目の前にいる結衣は別荘にいた時とは違い、
薄いブルーの白衣のような物を着ている。
僕は手術前の病人を思わせるその格好に憤りのようなものを感じた。
しかし、会えた。
初老の男は気だるそうに僕と結衣を観察している。
男はあれから一言も発していない。
僕は話を始めた。
「あれから何日経ったんだろう。
大体の予想はつくけど、ちゃんと食べてる?少し痩せて見える」
結衣はうつろな表情で、まだ一度もこちらを見ていない。
「結衣はロストじゃない。少なくとも一般に言われているようなロストじゃない。
意思もあるし、言葉も喋れる。
ここがどういう場所なのかよくわからないけど、結衣が普通のロストじゃない事がわかればきっと出られる。
別荘で言った事は忘れて欲しい。
君は間違いなく
結衣だし、他に結衣はいない。
失いたくないんだ。
どうか喋って」
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