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階段を上ると、比較的開けた通路があり、
近くの窓から夕日が差し込んでいるのが見えた。
地上だ。
そしてどうやらここは古く巨大な屋敷のようだ。
窓の外、正面にはぼんやりと林が見える。
その左側を見ると屋敷の正面の出入口だろうか。
性別はわからないが人間が立っているのが見えた。
この通路は僕達が上ってきた階段の左側にドアがあり、右側は長く通路が続いている。
所々に点在する年期の入った窓は不自然な程曇りがなく
左側からの夕日はおいそれと通路に差し込み、差し込む光はそれぞれが上質な定規のような質感を持ち、45度くらいの角度を保っている。
その光の間隔に合わせて通路の右側にはドアが点在しており、それぞれは静かに閉ざされている。
どこか隠れられるところはないだろうか。
僕は少し考えた。
しかしすぐにその考えを捨てた。
二人が隠れられるスペースなんて簡単には見つからないと思ったし、僕が眠ってしまったら寝息や音を立ててしまうかもしれない。
どれくらい眠ってしまうかもわからない。
危険過ぎる。
しかしこのまま左のドアを開けて見張りのいる正面入口から出る事は、今の僕にはできない。
しかし結衣を連れてここより上の階から逃げる事はできないだろう。
今の僕にできるのはせいぜい小走り程度だ。
他の出入口はどうだろう。
…おそらくある。
そしてその場所も僕は知っている。
やはり僕はここにいたことがあるのだ。
記憶が確かなら、ここは周りを針葉樹林に囲まれた巨大な屋敷で…
針葉樹?確かそうだ。
僕は結衣の手を引いてなんとか通路の突き当たりまで進むと
最奥のドアを開け中の部屋に入った。
もうおそらくあまり時間がない。
今にも止まってしまいそうな身体と思考。
限界は近い。
入った部屋は使用人が使っていたであろう質素な客室だ。
僕は部屋にあるソファを持ち上げて結衣に中に入るよう促した。
なんとか一人分のスペースはある。
…ここも知っている。
「ここから出ないで。もし1時間経っても俺が来なかったら隙を見て逃げて」
と僕は言った。
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