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一瞬気が遠くなりソファを落としてしまったので目を閉じて頭を振り、
ぼんやりとした頭のもやを振り払い、目を開けると
結衣が僕のシャツの裾を掴んでいる事に気付いた。
僕は驚いて結衣を見た。
視線には力があり、そこに何かを感じた。
治ったのだろうか?
「どうしたの?俺がわかる?」
と僕は聞いた。
しかし結衣は何も言わない。
「ちょっと行ってくる。表に逃げたと思わせて、裏から逃げよう」
と僕は言った。
しかし結衣は手を離そうとしない。
「…窓は割れない」
と結衣は言った。
僕は固まった。
頭が働かない。
これは何だ?夢か?
なぜ喋れるようになった?
「ここの窓は割れないようにできてるし裏の出口は開かない。それにあなたの身体はもう限界。脱水症状もでてる」
あなた、と結衣は言った。
別荘の時の彼女だ。
脱水症状?
確かに僕は窓を割るつもりだった。
しかしそれは口に出していない。
なぜわかったんだろう。
身体の力が抜ける。
いやだ。気を保て。
「結衣…」
それしか言えなかった。
視界が歪む。
自分が立っているのか座っているのかもよくわからない。
「ごめんなさい。
…全て私のせい。
こんな事になるなら初めから全て打ち明けてしまえば良かった。
本当はずっとそうしたかった。何もかもあなたに話して…
けどそれはできなかったの。
あの時も間に合わなかった…
けれど、今度こそ失敗はしない。
絶対に助ける」
と結衣は言った。
意味がわからない。
「…何?何の話?ここの事知ってるの?」
「ここは日本のどこかにある非公式のロスト研究所。
パトリオットとも繋がりはあるけど、ロストはここの方がずっと前から研究しているの」
パトリオット?確か南極の研究所の事だ。
何で結衣がそんな事を知っている?
「彼らはすごく危険。人工的にロストを引き起こす事も出来るし、その先も研究してる」
その先の研究?
「まさかさっき俺が打たれたのはロストになる薬?」
「…ううん。鎮静剤の一種だと思う。
そういう風にロストにはならないから。
それにあなたはもうロストにはならない。
あなたが望まない限り」
俺が望まない限り。
結衣は続けた。
「私が、あなたを一度ロストにしたの。あの別荘で」
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