・朝の違和感と消えた弟

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…泥棒でも入ったのだろうか?   いや、そんな事が起きていて目を覚まさないわけはない。 僕の眠りは誰もが驚くほど浅いのだ。   部屋の物を持ち出され、代わりにテレビを置かれても目を覚まさないなんて…   相手がライオンなら僕の人生は終わっていた。   僕の野性は楽器達と共にどこかへ旅立ってしまったのだろうか…   遠く離れたサバンナでは野性に帰ったギターが唸り、  ベースが暴れ、 僕の野性が機械達を連れて動物達と楽しくやっているのかもしれない。 そんなくだらない考えが少し僕を安心させた。 …いつもの僕だ。 どうやら頭は普段と変わらずに働いているようだった。 テレビの他にもう一つ増えているものがあった。   時計だ。 木製の鳩時計が壁にかけられていた。時計の針は8時を少し過ぎた辺りを指している。   動いているのかはわからなかったが…この鳩時計はどこか懐かしい感じがした。   しかしテレビも時計も僕には興味を示してはいなかった。 まるで部屋の主は我々だ、と言わんばかりに 固く、冷たく、静かにそこに存在していた。 …時間を確認するためケータイ電話を探したが見つからなかった。   部屋には窓が二つある。 もう一方のカーテンを開く時に机に触れた。   机は僕のものだ。 しかしいつもそこに開いて置いてあったPowerBookや絵の具、コピックも無くなっている。 机の中も空だ。 何年も見ていない引き出しを開けた。 昔の写真や、誕生日にもらったプレゼントなども全てなくなっている。 空っぽの引き出しを見ると、何だかやり切れない思いになった。   窓を開け外を見ると下にはいつも通りの静かな公園が小さく存在していた。 それは少なからず僕を安心させてくれた。 太陽の光が木や草や花を照らし、 僕を照らした。 公園に人はいなかった。 聞き慣れたはずの鳥の声が妙に懐かしく感じた。 僕は何度か深呼吸してから窓を開けたまま、 時計とテレビの部屋をあとにした。
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