・続く違和感、涙

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部屋を出ると、いつもの僕の家がそこにはあった。 ドアを開けた目の前にはトイレ、 隣には弟の部屋。 階段の奥、突き当たりは母の部屋だ。 僕は弟の部屋をノックした。 あの鳩時計がある程度正しい時間を指しているなら、弟はすでに仕事に出ているはずだった。 返答はない。 ドアを開けて部屋を覗いてみた。 …僕は目を疑った。 部屋は空っぽで、何もなかった。 黒いソファも、 僕があげたガラスの机も、 飾ってあった写真も 大切にしていたモルガンのジャケットも…何も。 あるのはレースのカーテンと小窓のブラインドだけだ。 弟に何かあったのだろうか… 「兄貴、明日も仕事ねーのかよ」 と言っていた弟の顔が浮かんだ。 ドアを閉め、一度大きく深呼吸をした。 心拍数が上がっていくのをかんじた。 焦る心を押さえながら、 僕はゆっくりと階段を下りた。 やはり目が霞んで良く見えない。 思いきり目を閉じて開けてみたが、何も変わらなかった。 …こんなに階段を長く感じたのは初めてだ。 一段一段確かめるように下りた。 一階に着くとやはり違和感を感じた。 玄関は綺麗に片付けられ、 飾ってある花の色が違った。 たった一日でこんなにもいろいろと変わってしまうなんて… 浦島太郎にでもなった気分だ。 …僕は考えるのをやめ、 少し警戒しながらゆっくりとリビングのドアを開けた。
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