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見渡す限り何もない荒野。あるとすれば、砂のみだ。強い風が吹き、砂塵が舞い上がる。その砂塵が吹き荒れる中を、一人の少年が歩いていた。
歳は十七。少し跳ねっ気のある黒髪で、右目が隠れている。瞳は闇を表すような黒髪とは反対の、輝きを宿した金色の目だ。
身につけているのは黒の修道服。薄めのコートのような構造のため、風になびいている。首からはロザリオが下がっていて、右手には聖書がある。
少年の名はカイル・ライダート。リーネットに所属する聖職者の一人だ。
向かい風で、砂と強風がカイルの顔を叩くが、表情を変えることなく、前へ前へと進んでいく。
整った顔立ちのカイルが浮かべているのは無表情。しかし、普通の人とはどこか違う。
無表情でも、感情があるならその時の状況によって、ちょっとした変化が見られるはずだ。しかし、カイルからはまったく見られない。まるで元々感情がないようだった。
さすがに目に砂が入るとまずいため、目は細めているが、決して苦悶の表情には見えない。纏っている空気が不思議な少年だった。
首から下がっているロザリオが、風に煽られて暴れるように動いていたが、ふと元の定位置であるカイルの胸元へと戻った。風が止んだのだ。
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