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ある日の夕刻、夕日に照らされた川べりの土手に腰掛ける青年がいた。
青年の名は張統(ちょうとう)。
字を飛燕(ひえん)。
呂文(りょぶん)軍将軍伏児(ふくこ)配下の兵士。
そして先の戦で益圏の軍に住んでいた村を焼かれ村を追われた萪圏の民の一人だった。
前をまっすぐに見据えた飛燕の視線の先にあるのは遥かなる大地。
そしてその先にあるのは益圏。
飛燕は手元に置いてあった弓を握り締め立ち上がった。
「いつか…必ず…」
飛燕は小さな声で呟くと矢筒から矢を一本取り出し、地平線へと消えていこうとする夕日に向かって矢を放った。
矢が飛んでゆくのを見届けると彼は繋いであった馬にまたがり脇腹を蹴った。
飛燕の頭上をねぐらへ帰る鳥たちが群れをなして飛んでいく。
やがて飛燕の姿は夜の帳が降りる町へと姿を消した。
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