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◇境界を越えて◇ -2-
「ええ、本の世界に、貴方は入る。無茶苦茶な話のように聞こえるかもしれませんが、直ぐにそれがどういったものかご理解いただけると思います。……もっとも、今のこの会話を覚えていれば、の話ですけれど、ね」
少女は手にした剣状の何か――彼女の先程の言から察するなら、挿入栞とい名のそれを、本に入った切れ込みに添えて、
「これ以上の事を知りたいと。私達との繋がりを望むなら、この箱舟へーー『エルアークへ戻りたい』と己の中へと訴えかけなさい。そうすれば、貴方の持つ栞が、こことの道を繋いでくれるでしょう」
言葉と共に、その小剣を本の中へと挿し込んだ。
――同時、眼前を覆う紙の吹雪。
四角形の本。閉じられていた両面の封の片側が開き、内側から凄まじい量の紙面が吹き出した。
一瞬、視界の全てが紙の白色に塞がれて。そしてその白の向こう側から、見たことも無い光景が迫り、目に映るあらゆるものを別の何かへ、新しい世界へと塗り替えていくイメージが頭の芯に焼き付く。
「ーーそれでは、またお会いできる事を楽しみに」
白い紙片の向こう。途切れ途切れに見える少女が、完璧な笑顔と共に小さく一礼。
それを認識すると同時。身体が砕かれ、吸い込まれるような感覚が○○を襲った。
視界が失せ、感覚が失せ。
そして一瞬視界に小さな影が過って――全てが闇色に閉じた。
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