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◇故無き逃走劇◇ -3-
(馬鹿な)
その事実に○○が自失しかけた瞬間。
――森が終わり、視界が大きく開けた。
「!?」
そして勢いのまま飛び出した○○は、眼前に広がった光景に唖然と足を止めた。
森の先に存在したのは切り立った崖。途切れた地面の遥か下には、
「……雲?」
青く澄み切った空の下、白色の雲が群を成して泳ぎ、その切れ間の向こうには翠の色彩――恐らくは海の色がちらちらと瞬いていた。
つまり、何だ。
(ここは、雲の上に存在する?)
至った結論に、○○はぱかんと顎を落とす。
そこへ、轟音。
○○の驚愕を打ち破るように背後からの森を裂いて現れたのは、○○の身長の数倍はあろうかという鋼鉄の巨人だった。これが、先程から木々の向こうに見えていた巨大な影の正体。
鋼の彼の肩上には黒いドレスに身を包んだ金髪の娘が立っていて、どうやら巨人と彼女は仲間であるらしい。○○の姿を認めた少女は、笑みと脅迫という二種の表情を器用に浮かべながら、○○に向かって何事かを叫んだ。
「ーーっ。ーー?」
が、届いた言葉は全て、○○の耳にとどまる事無くすり抜ける。
理解できる筈の言葉が理解できない、そんなもどかしさが一瞬頭の中を巡り、しかし○○がそれを意識する間も無くその違和感は消え去って。
後に残ったのは、
(どう、する)
逡巡する間に、更に一歩。鈍い音を立てて、巨人が迫る。
今、自分が取るべき行動は――。
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