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◇朧げな選択◇ -3-
息を呑んだ。
まるで毛糸の玉が解けていくように、右の掌がほろほろと崩れ始めていた。
「ーーーー」
情けない悲鳴が出る。
これに驚かずして一体何で驚けというのか。○○は半ば恐怖状態に陥って、
「ああ、もう……!」
直ぐ傍までやってきた娘が、暴れかけた○○の額を覆うように、小さな掌を広げてがしりと掴んだ。
そして、
「いいから、今は大人しくしなさいなっ!!」
少女の掌から○○の額を通し、そして頭の芯の部分へと、鋭い衝撃が突き抜ける。
呻く間もない。
○○の意識は一瞬にして刈り取られ、そして何もかもが暗転した。
まるで波の間を漂うように。
ゆらりゆらりと、身体と心が緩やかに揺れる。
揺り籠の中に居る幼子のような、そんな安らいだ意識の片隅で、○○は二つの声を聞く。
「何とか、落ち着いたようだな」
「……はい。意識水準も覚醒状態寸前にまで達しているようです」
その声は、幾重もの膜を通したように小さく微かで、子守唄のようにも聞こえた。
「それで? 本当にやるつもりかね、上のお嬢ちゃん」
「ええ。今の応急処理では崩壊を完全に抑えることは出来ませんもの。急いで適当な”群書”へと挿入させて、記名変換中に直接干渉して存在懸念を修復する必要があります」
「目覚め次第、直ぐに”仮記名”を行うつもりか? 説明は?」
「無理ですね。悠長に話している余裕がないのは、”准将”もお判りでしょう?」
「……確かにな。この状況で覚醒、安定状態を維持できるのはせいぜい数分だろう」
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