【エルアーク】

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◇朧げな選択◇ -4- 目に映るのは、白く揺れる水面。 時折瞬き、○○の意識を刺激する光の向こう側に、二つの人影が見えたような気がした。 「にしても、そこまでせねばならない者かね、この”迷い人”殿は。特異であるのは否定せんが」 「ここまで本との”縁”が見えない方は初めてですからね。少しだけ、興味があります。それに、この方は”落丁”と共に現れなかった。それだけでも十分特別なファクターです」 少しずつ、意識を攫っていた水の嵩が減っていく。揺らいでいた心は徐々に定まり、耳に届く声ははっきりと、遠く見えた水面は既に手を伸ばせば届く位置。 「しかし、調整も不完全な”挿入栞”だけ持たせて群書に放り出せば、こちらとの同期を取るのも難しいだろう。潜在意識下での基本機能と、拡張機能使用要請。それに対する並行自動反応処理辺りなら通るだろうが、他はこちらとの道が繋がらないと不可能だぞ? その御仁が気づかぬ限り、この”箱舟”に戻る事も」 「それは、この方次第でしょう。私ができる手助けはここまで。後は、この方が私達を求めるか否か。それで決めましょう」 「矛盾しとるね。先刻は特別はファクター等と言っていた気がするが?」   「……他に良い手があるなら、そちらを選択しています。でも、これしかないからーー」 しかし、あともう少しで水が失せると所で、意識が深く沈む感覚。どぷんと、今まで背中を支えていた何かが消失したように、目の前にあった水面が遠のいた。五感が失われ、その閉塞に耐え切れず、意識が失われる。 「っとと、いかんな。話し込みすぎた。ほら、迷い人殿が落ちかけているぞ」 「あ……」 その間際、するりと先程の影の一つが自分の真横へと動いた。 穏やかな微笑みを浮かべた小さな顔が、こちらを覗き込むように迫る。くすんだ金色の長い髪がさらさらと零れて、○○の顔に僅かにかかった。
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