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樹楊は動けぬまま、少女の近接を許してしまった。
ぐっしょり濡れた前髪から流れてくる雨垂れが目に入るが、瞬きなんかしていられない。
僅かでも隙を見せようモノなら、成れの果てはあのプレイオのように……。
少女の顔はフードが傘となって見えない。
今、どんな目をしているのかも、解らない。
「ねぇ」
「な、何だっ」
心臓が飛び出すかと思った。
剣士なら口より先に手を動かせ、つまり敵を殺せと言ったのはこの少女だ。
まさか言葉を発するとは思ってもいなかった。
少女は顔を僅かに上げてくると、片目だけをフードの隅から覗かせた。
「ふふっ、何その顔。不細工ね」
殺意は感じられない。
そればかりか、心なしか馬鹿にされているようにも感じた。
「アンタ、その戦衣を着ているって事はスクライドの剣士ね?」
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