第一章 

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樹楊は動けぬまま、少女の近接を許してしまった。 ぐっしょり濡れた前髪から流れてくる雨垂れが目に入るが、瞬きなんかしていられない。 僅かでも隙を見せようモノなら、成れの果てはあのプレイオのように……。 少女の顔はフードが傘となって見えない。 今、どんな目をしているのかも、解らない。 「ねぇ」 「な、何だっ」 心臓が飛び出すかと思った。 剣士なら口より先に手を動かせ、つまり敵を殺せと言ったのはこの少女だ。 まさか言葉を発するとは思ってもいなかった。 少女は顔を僅かに上げてくると、片目だけをフードの隅から覗かせた。 「ふふっ、何その顔。不細工ね」 殺意は感じられない。 そればかりか、心なしか馬鹿にされているようにも感じた。 「アンタ、その戦衣を着ているって事はスクライドの剣士ね?」
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