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「桜……?」
俺は不思議に思い、彼女のスカイブルーの瞳をじっと見つめた。
「そうだよ」
それに対し、彼女はにっこりと微笑み、俺の後方に立つ木に目を向ける。つられるように、俺もそちらを向いた。
この公園にある木々の中で一番大きな物なのだろう。その大木の葉は風に揺れ、爽やかな印象を持たせた。そんな大木を視界に捉えながら、シアは話を続ける。
「桜は春になると桃色の花を咲かせるでしょ? あたし、初めて日本に来た時に見て、すごく綺麗だなぁって思ったの」
「まあ、確かにそうだけど……桃色の花を咲かせるのは、梅とかだってそうじゃないのか? 色合いは微妙に違うかもしれないけど」
「うん……でもね、桜には一番大切な思い出が詰まってるから――だから、一番好き」
「…………」
懐かしむように語るシアの姿は、何処か幻想的であった。まるで、自分だけが別世界に溶け込んでいくような……そんな感じを覚えながら、俺は大木を見据える。
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