虚空

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「何処を見ておる? ここじゃよ、お前さんの真後ろじゃ」  老人らしきしゃがれ声に促されるように、ウォードは後ろを向き、足元を見た。  いつの間にそこにいたのか、柄の小さな老人はニヒッと笑みを浮かべ、彼から距離をとる。一方の彼は驚愕し、拳銃を放り投げて更に距離をとった。その姿に、老人は含み笑いをする。 「何じゃい。大きい図体の割に、器の方は軟弱じゃのぉ」 「うるせぇ! ジジイがいきなり出て来るから悪いんだろうが!」  込み上げてくる恥ずかしさを隠すように、ウォードは両手を使って、大袈裟に言い訳をした。 「はて? わしはずーっと、お前さんの側におったぞい。後ろからずーっと……な」 「な、何……!?」 「ふぉっほっほ……他人の気配に気付けんようでは、まだまだ修行が必要なようじゃな」  そう言って老人――エマーソン博士は指揮官席へと腰掛ける。
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