序段

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 暗い暗い岩穴の中、幼い泣き声が反響していた。  その声は闇の中を跳ね返り続け、低い呻き声のような重々しい響きに転じる。  どの位の時間が経ったのだろうか、僅かな、ほんの僅かな声で幼子の名を呼ぶ声。  その声に向かい精一杯にあらんかぎりの力を振り絞り、自らの存在を主張する。  主張は通じ、幼子の名は近付き続け、遂には厚い岩塊を挟む位置にまで達した。  しかし、そこで希望はついえたかに思えた。  外の声は内の声と同じように、幼子の声だった。
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