闇無き闇

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「『いいと思うぜ』『やめてほしいよ』……」 じろり、と新菜の視線が早紀に降り注ぐ。 「むーぅ、なんか卑屈だよ、早紀! 暑さにやられて、ちょっとイライラしてるの?」 「別に……」 早紀は寝返りをうち、新菜に背中を向ける。 実は少し、イライラしていたりする。 早紀は頑張るということそれ自体に、嫌悪しているから。 「俺は頑張るということそれ自体に、嫌悪してんだよ」 「わ、そのまんま言ったっ! ――って何で! 素晴らしいでしょ『頑張る』『努力』! 日々の向上心こそが、未来をつくる骨組みなんだよ!」 「努力って……あれ、新菜、お前そんな熱いこと言う奴だったか? 暑さにやられた?」 「それはいくらなんでも失礼だよ……」 ジト目で見られた。 春の事件以来、新菜は何故かネガティブな自己嫌悪は減って、そして少ないながらも、友人をつくっているのだが、しかしその分、自分よりも上位に立たれたような気がするのだ。 これじゃあ、助けるなんて言ったのが、あまりに惨めじゃないか?
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