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今年は珍しく早くに雪が降って、二度目に彼がやってくる日には銀世界に変わっていた。
「ただいまかえりまし…」
軽く呼気を弾ませ、そっと扉を開ける。
シュンシュンとヤカンから上がる湯気の先、こたつに入っている金髪が舟を漕ぐように揺れている。
アーサーさん、寝ちゃってますね…
起こさぬようにそっと扉を締め、自分の羽織を脱いで近づく。
あ…可愛い寝顔です
覗き込みながら間近で見た寝顔に、つい笑みが零れてしまいそうになるのを耐えて羽織を肩に掛けてあげて。
「ん…俺、…」
ピクリと睫毛が震えると、ゆっくりと露になった緑色の瞳がぼんやりと此方に向けられて
「起こしちゃいましたね、すいません」
やがて焦点を結んだ瞳が、私だと認めると笑みに細められる。
「おかえり」
「!」
ああ、電球切れててよかったです…!
「え?俺、何か変なこと言ったか?」
不思議そうに見返してくる彼に首を振ってみせ、冷静さを保とうと着物の袂を握りしめる。
一人暮らし長いですが…やっぱり嬉しすぎます
おかえり、優しく響く言葉が
【End】
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