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春の暖かな日差しが民の生活に降り注ぐ。
居住区には朝食時の家族の笑い声が溢れ、商業区には朝早くから物を買う為の小銭のぶつかり合う音が響いていた。
クロス・ラフォニットはこの賑やかさをとても気に入っている。
彼の男性としては少し長い、艶のある黒髪を照らすこの日差しが、彼の漆黒の瞳に映る人々の笑顔が彼の中の孤独を和らげてくれるから。
十五の時、アイゼンシュバルツ帝国の帝都グラジオールに来てからはや四年。
暮らしていく為に働きながら、修行を続けて来た。
今春、ついに実力を認められ、念願叶って騎士になることが出来た。
だが、騎士はあくまでも通過点に過ぎない。
自分には成し遂げなければならない事がある。
そう、心で思って、その端正な顔を引き締めていても、いつの間にか表情が緩んでしまう。
騎士が常駐する、モルドレッド城に向かう足は、注意しないと嬉しさのあまり、踊り出しそうだった。
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