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人生って言うのはどうもドラマチックに回っていかないものです。
私こと徳永祐亜はそんなことを思いながら、自分の通う南高校へ続くうんざりするくらい長い坂道を上っています。
あればいいなと思っています。ドラマみたいな素敵な恋愛、ラノベみたいな不思議な恋愛。
勿論分かっています。いきなり自己紹介で席の後ろの奴がただの人間にはうんちゃらかんちゃら的な狂ったような発言したりだとか、実は俺がもう既に死んでいて俺が本物の残り滓でできた代替物だとか、ドジな可愛い女の子が間違えて俺の鞄にラブレター入れて、そっから恋仲に発展していったりだとか……。
……ないっすよね。ただ、それを認めたくない気持ちもあるんです。
サンタクロースみたいなもんっすね。いないって分かってるけど、いるって信じたい。
どこかにきっとあるんだと。
───きっと俺のためだけの出会いがあるんだと。
そんな淡い希望を胸に秘め、俺は桜並木の登り坂を登ります。
登り坂の終わり、その右手に一際大きな桜の木が一本立っています。別に伝説の桜の木って言う訳じゃないんですが、この南高校の象徴的な存在です。
俺はそいつを見上げます。
「運命の人に出会え……って俺は恋に恋する乙女か!?」
俺はそっと願掛けをした後に、セルフツッコミを入れていました。
「むむむ、もうこんな時間か!?」
ふと、桜木のてっぺん付近から女の声が聞こえてきました。いや、そんなはずはありません。この木は軽く7~8mぐらいの高さがあるんです。そんな大木に登るキングコング的な女の子がいる訳……。
「よっと!」
俺が見上げる桜木のてっぺんからそいつは飛び降りて来やがりました。
──第一印象ですか?
正直、まずその美貌よりもあんな高くから飛び降りても平気な膝のクッション性に驚愕しましたね。
桜並木に映える長い黒髪に、およそ完璧だと思われる艶麗なスタイル。そしてその凛々しくもあり、可愛らしい顔立ち。
「なんだお前? 遅刻するぞ?」
名も知らぬ少女が投げかける言葉に、俺は返事をすることが出来ずに見とれていました。
柔らかな春風に桜の花びらが揺れる坂道の終わりで、俺と彼女はこうして出会ったのでした。
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