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私がそう考えつつテレビを眺めていると、先程のアナウンサーがスタッフらしき人間から紙を受けとり、読み上げ始めた。
『えー、では、先程入った情報です。本日午前7時頃、刃物を持った男が路地で男女5人を刺し、その通りの店に人質を連れ込んで立てこもりました。警察は……』
「え……? なんで!?」
私の思考は数秒止まる。
こんな事件、あるわけがない。
私は武器を無くしてと願ったのだ。
だから、私が武器と認識したナイフの類いも、銃器と一緒に消滅したはずなのだ。
混乱状態のまま部屋をうろついていると、ふと、ある単語が頭をよぎった。
『包丁』
料理の必須アイテム。
私はキッチンへ行き、それにふれた。柄の先端には、鋭い刃。
「身近にありすぎて逆に気づかなかった……。これで、人が殺せるんだわ」
手で柄を持ち、刃を眺めながら思った。
警察は、どうやってあの人質を救うのだろうか。
先程の通り、銃器などの武器は使えない。存在しないのだから。
今までは多分、まず外から説得し、最後には銃器があると脅しつつの説得していたのだと思うが、今はそれができない。
銃器のない説得に応じる犯人は、あまり想像できない。
強行突破で押し入ろうにも、人質がいる。
遠くから攻撃の出来ない警察に、近くに刃物を持った人間がいる人質を助けられるだろうか。
ヤケになった犯人が人質を殺し、自分も死ぬ。
そんなケースだってない訳ではない。
私のせい……?
そんな風に考えていると、今度は赤茶けた髪をしたリポーターが慌てたように実況し始めた。
『大変です! なんと犯人の持っていた包丁が忽然と姿を消したことが確認されました! これは今日起こった謎の消失と関係しているのでしょうか?』
その実況と同時に、私の手の中にあった包丁が消えた。
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