使い道

8/11
前へ
/58ページ
次へ
 手の中の包丁が跡形もなく姿を消したため、私の手だけが柄の形を作った。  先程のニュースを伺うと、警察は相手に武器が無い今のうちに、と、大人数で素手で突入していったらしい。  リポーターはその騒がしい様子を興奮しながら実況していた。 『現在、警察は店の中の……あ!出てきました! あれです。2人に抱えられ手錠をしている真ん中の人物が今回の事件の……』  カメラを拡大にしたのだろう。やや荒れてはいるが、男の顔が見える。 顔が、腫れていた  きっと大勢の警察たちに殴られたのだろう。もう原型をとどめていないに等しい。 そして、私は気づいた。 『手』は、武器になる。  私は『手』が好きだった。 誰かと握手し、誰かを抱き締め、誰かに差し出す。 『手』は、素敵なものだ、と。 だが、違う。 手は、誰かを抱き締められるが、誰かを殴ることも出来る。 「……手も、武器なのね」 その時だ。 見ていたテレビの画像が斜めに傾いた。続いて、ゴトン、と重い音。画面が静止したとき、建築物はテレビの中で横向きに建っており、アスファルトは右側にあった。
/58ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加