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口に出す勇気がなくて、あの日からずっと胸に引っかかったまま。 「やっと暖かくなったと思ったらあっと言う間に梅雨ね」 沈黙を破って、独り言のように紀ちゃんはつぶやいた。 「そうだね」 「梅雨は、嫌」 「うん」 紀ちゃんは、私の相づちに満足そうに笑った。 「雨の中のお墓掃除って大変なの」 ずきんと、胸が痛む。 聞くなら、今。 私が、口を開こうとしたとき。 「今年は里奈も行きましょ、紀子もきっと喜ぶわ」
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