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宮原さんからの答えはなく、沈黙に耐えられずに、私は笑って顔を上げる。 今ならまだ、冗談にしてしまえると思って。 「なんて、わがままを言ってみた…り……」 言葉を詰まらせたのは、顔を真っ赤にした宮原さんと目があったから。 「ごめん…俺、こ、心の準備が…」 それだけ言って、宮原さんはテーブルにうつ伏せて深呼吸をした。 30過ぎの男の人が困っているその姿が新鮮で、私は思わず笑ってしまった。 「いや、ごめん、凄くうれしいよ。でも、俺は君に言わなきゃならないことがあるんだ。それを伝えるまでは、その…考えてなかった」 「言わなきゃならないこと?」 「うん、言いにくくてつい後回しにしてたけど、言わなきゃならないことだから…」 冷静さを取り戻した宮原さんは、姿勢を正して座り直すと今度はまっすぐ目を見て言った。 「俺、結婚してるんだ」
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