10

13/15
前へ
/317ページ
次へ
用事があって、早めにお店に行ったのかもしれない。 それなら、携帯を忘れたことに気がついたら電話をくれるはず。 そう自分に言い聞かせてもなんだか落ち着かずに、しばらくリビングでうろうろしていると、紀ちゃんの携帯がなった。 見慣れない番号だったけれど、紀ちゃんかもしれないと通話ボタンを押した。 『ちょっと紀之、鞄忘れてるわよバカね』 唐突に聞こえた暴言は、女性の声。 『紀之?聞いてるの?』 紀之。 どうして、今の紀ちゃんをその名前でよんでるの。 とても、親しげな無遠慮なその声。 「あの、私…紀…紀ちゃんと同居してる者で…」 『え?』 「紀ちゃん…まだ帰ってないので伝えておきます。お名前教えていただけますか?」 『あー…すみません、私西山と言います…紀之さんに、鞄取りにくるようにって伝えて下さい』 西山と名乗った女性は、相手が紀ちゃんだと思っていたときとは全く違う、事務的な声で早口でそう言って、失礼しますと電話を切った。
/317ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9818人が本棚に入れています
本棚に追加