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泣きはらして不機嫌にむくれた顔のまま、紀ちゃんは助手席に座っていた。
私は久々の運転で紀ちゃんに声をかける余裕なんてなくて、たぶんそれがちょうどよかった。
泣いて泣いて、紀ちゃんはたくさん泣いて、お墓に向かってとても辛そうな顔で笑った。
「結構、辛かったわ」
でも、それが紀ちゃんの本当で。
はじめて素直に、愛する人を亡くして辛いと言えたんだ。
「私はずっと、そばにいるからね」
信号待ちで停車中、私はそれだけつぶやいた。
「ありがとう」
紀ちゃんは、真剣な顔で頷いた。
帰りの車の中での最初で最後の会話。
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